第五話 「恋するオトコに福来たれ」
朝、3人の食卓。
もういつも通りと言っていいほどに慣れた寮の生活。
だが今日はいつも通りの食卓ではなかった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・;」
いや、なんか静か!!
いつもは朝食時に騒がしいアヒャがなんと黙って食べているのだ。
いや、正確には食べる前までは騒がしかった。
「シーン、なんかした;?」(小言)
「・・・いや、特になにも;」(小言)
「ごちそうさん」
だけど食べる早さは変わらない;
アヒャは食べた朝食の皿をさげ、いま眠りにつこうとするぎゃしゃの元にいった。
「ぎゃしゃ、ちょっと今から公園にこい。」
「嫌だね。僕は眠いんだ」
「いいからこい、どうせ今のお前じゃまともに寝れねぇだろ?」
「・・・・・」
「アヒャヒャ。隠せはしないぞ」
「・・・・解ったよ・・」
二人は出掛けて行った。
「・・・なんかあったの?」
「・・何だろう。あんなの初めてだ。」
俺はともかく、長い間いっしょのはずのシーンまでもが解らないようだった。
とりあえず俺とシーンは朝食を食べ終える。
「シーンも二人で出掛けるとこ見るのは初めてなの?」
「・・・・うん、いつもはアヒャはすぐ出掛けて、ぎゃしゃは寝てた・・」
「そうなのか・・・、じゃあさ。つけてみない?」
「え!?あの二人を?;」
「だって一緒に住んでるんだから、知っててもいいはずだからな!」
「・・・・でも、アヒャはともかく、ぎゃしゃは危ないと思うけどな。」
「でも知りたいでしょ?」
「・・・・・まぁ」
という訳では、シーンと一緒にアヒャとぎゃしゃをつけてみる事にした。
二人をおって公園まで来てみると、意外とアッサリ二人を見つけた。
入口のすぐそばにあるベンチに二人とも座っていた。
「ぎゃしゃ、お前なんか悩んでるだろ?」
「・・・・・何でそう思うんだ?」
「お前とはもう、2年近く一緒に暮らしてんだ。だけどお前はいつも同じだったのに今日は違ったぞ。」
「なにが?」
「お前が作る飯の味だ。何だか荒かったぞ。」
「・・・・・」
何やらシリアスな話を為ている。
と言うか
「味違った?;今日の」
「いや;わからなかった」
アヒャが食べたなら自分達も同じはずだが、はっきり言っていつも通りの味だった。
「・・・・・はぁ〜;、お前にだけは気付かれたくなかったらのにな。」
「アヒャヒャヒャヒャ。やっぱり悩んでやがったな。」
「・・・誰にも言うなよ。」
「あぁ、言わないから言ってみ。」
「・・・・笑うなよ・・」
「あぁ、多分それ無理。」
いつもの笑い声とともに堂々と言うアヒャと、ガックリうなだれるぎゃしゃ。
こんなの滅多にみられないなと思う俺。
「・・まえにモララーの友達来たろ?」
「ああ、ギコとしぃちゃんの事か?」
「うん。それでさぁ、そのしぃさんがさ;・・・・・」
「しぃちゃんが?」
「・・・・気になってたまらないんだ・・・」
「・・・・つまり、しぃちゃんに一目惚れしたと?」
「・・・・うん」
ぶぅーーー!!
思わずシーンと飲んでたお茶を吹いてしまった!
シーンもむせている。
「・・・・プッ」
アーーッヒャッヒャッヒャッヒャアヒャヒャヒャヒャヒャ。アヒャヒャヒャ!ヒャゲホ!ヒャヒャヒャ!アーーッヒャッヒャッヒャッヒャアヒャヒャヒャヒャヒャ。アヒャヒャヒャアーーッヒャッヒャッヒャッヒャアヒャヒャヒャヒャヒャ。アヒャヒャヒャ!ヒャゲホ!ヒャヒャヒャ!アーーッヒャッヒャッヒャッヒャアヒャヒャヒャヒャヒャ。アヒャヒャヒャ
あのうるさい笑い声が公園中に響き渡る。
そこらにいたハトなんて豆鉄砲でも食らった顔をしていた。
「ヒャー;腹痛て。まさかお前が恋をするとはな。」
顔を真っ赤にして恥ずかしそうに下を向くぎゃしゃ。
「それで?そのまま何もしないで片思いぶっここうってか?アヒャヒャヒャ」
「そりゃあ、そうするしか・・・」
「だぁー!甘い。もう相手の事おもってんならアタックあるのみだろうが」
「口ではなんとでも・・・」
ビシィ!
ぎゃしゃの顔面に人差し指を突き出し
「忘れてくれるなマイブラザー、俺がいるだろ?」
「はぁ?」
「ぎゃしゃの初恋とくりゃこのアヒャ様、バリバリ手伝っちゃうぞ。アヒャヒャヒャヒャ」
「・・・・はぁ;」
この場はすっかりアヒャペースだ。
流石のぎゃしゃも今の精神状態のせいもあってアヒャのペースに乗せられてしまっている。
「同士よ、共に恋に打ち勝とうではないか!」
「お・おう!」
まあ見てる此方は面白いんだけどな。
「さらに今日はチャンスだ、なんせもうすぐおめあての相手が来るしな。アヒャヒャ」
「・・・・呆れるほどの情報網だな。」
「とにかくまずは隠れるぞ。いきなりアタックはまずい。まずは相手の事を知ることからだ。」
「・・あのさ、なんかさっきと矛盾してな・・」
「イインダヨ。恋は全てを許す。」
「ソーナノ?;」
「ソーナンス」
いや、違いますから。
ストーカーは立派な犯罪ですから;
「これって止めたほうがいいのかな?」
「・・・・・さぁ;?」
「ナニヤッテンダモララー。」
心臓が飛び出るかと思うほどの驚きだった。
「へぇ〜、モララー君も朝早くに公園にくるなんて珍しいね」
「ナンヤ、朝はよぉくれば誰もおらん思て来てみたら先客がおったか。」
後ろから話しかけて来たのはしぃちゃん・つーちゃん・のーちゃんの三人乙女(?)トリオだった。
「トニカクイマカラ、ジョシサンニンデハナシスンダ。ダカラ・・・・・」
「だから?;」
「シニタクナカッタラ、カエッタホウガミノタメダゾ。」
殺気満点の笑みを見せられ、答えられたのは
「「ハイ;」」
の、一言だった。
つーちゃんが包丁を出す前に退散しましたよ;
ダッシュで退散しましたよ。
一応あのふたりの事は黙っといたけどね。
続きがみたかったからな;
公園にて色々と話しているアヒャとぎゃしゃ。
「そろそろだな。隠れるぞ。」
「え!;もうなの?」
アヒャはジャンプしてもう木の上に隠れていた。
かなり慣れてるご様子;
『って、僕も隠れないと;』
近くに有るのは
・ベンチ
・木が数本
・段ボール
・茂み
・地面;
ってろくなのないじゃん;
「サテト、コノヘンデイイカ。」
「さっきの二人、なんやったんやろな?」
「さぁ?」
アヒャの言った通り彼女は来た。他にも二人、確かつーとのー(だったと思う)だ
それに二人ってぼくらの事;?
「キニスルナ、スワローゼ。」
え!?マジですか?;
ここで何人かの人は予想してるかもしれないけど
僕はいま、[ベンチのしたに段ボール]で隠れてる状態;
そのままベンチに腰掛け・・・
「ア〜ストップ。マタイヤガル」
えっ?!ヤバイ。バレタ?
どうする;こんなときどうするか聞いてなかったよ〜;
「ナンカイバレレバ・・・」
殺られる前にでて謝るべきかな;?
それとも逃げる;?
「キガスムンダヨ!コノクソヤローガ!#」
あ、オワタ\(^o^)/・・・・・
ザク!
「アヒャアアアァァァ!」
ドサ!
あれ?
「アヒャ、テメェマダコリテネェミタイダナァ#」
「うぉ!今日はまた一段と怒ってらっしゃる;」
「ウルセー。キョウコソブッコロス」
「アヒャアアア!マジで勘弁!」
アヒャとつーがどっかに走って行った。
見えなくなるまえにアヒャが親指をつきだしていた。
もしかして、アイツ僕の為にわざと?;
「・・・先輩いってもうたな。」
「行っちゃったね。」
取り残されたしぃとのー。
あの二人が居ないと静なもんだ。
逆に怖い;
「とりあえず座ろっか」
「そやな。」
結局座るのね。
ベンチに二人が腰かけた。
完璧に出るタイミングを見失うぎゃしゃ。
しばらく沈黙が続いた。
上の二人にとってはなんてことない時間なんだろうが、その下にいるぎゃしゃにとってはかなりキツイ沈黙。
乙女メンバーもどうやら、つーちゃんが居ないと話ははかどらないらしい
話をきりだしたのはのーちゃんだ
「そういえば、悩みがあるていっとったな、しぃハン。自分で良ければきくで?」
「うん、実はね・・・」
『う〜ん、僕は聞いてていいのかな?;』
どうもこういう場面は初めてのぎゃしゃは少し女の子の悩みを勝手に聞くことに違和感がある様子だ。
かといって迂濶にでられない状態。
「今度ギコ君に誕生日のプレゼント渡したいんだけど。ギコ君の誕生日もう随分すぎちゃって渡しずらいんだ。」
「なんや、なんで当日に渡さんかったんや?」
「・・・・当日に間に合わなくて。急いで仕上げちゃうのは駄目かなって」
結局聞いちゃった・・・・
そうだよね。しぃさんにはギコがいるんだよね。
僕なんて・・・・えっと、なんだっけ;
たしか、アウト・オブ・ガンチュウ (アヒャ談)だよね。
「なるほどなぁ。確かに渡しずらいな。」
「どうしようかな。」
「食事にさそうとか?その時渡したらええんちゃう?」
「私あんまり持ち合わせが;」
「その辺はモララーハンに・・・って、今は家ないやんモララーハン;」
うん、モララーは今家ないから僕らんとこいます。
「なんかパーティーかなんかあればその時に渡せばいいんやけどな。」
「私一人じゃ料理つくろうにも・・・・」
「うぅ;自分も先輩もパーティー料理なんて作れへんからな;」
「他に誰か・・・・あ、」
「誰かおるんか?」
「でも、失礼かな。一回あっただけだし・・」
すると、少々疲れた様子の人影が
「マタセタナ。」
「あ、お帰りつーちゃん;」
アヒャを追いかけていったつーちゃんが帰ってきた。
ボロボロのアヒャを引きずって
「ニゲアシダケハ、ハエーンダヨコイツ」
うわ;、またはでに殺られて;
帰ったらシーンに頼まないと;汚れるな
・・・・・ん?
アヒャはどうやらまだ意識はあるらしく、ハンドシグナルを送ってきた。
[と り あ え ず ば れ る な ば れ た ら し ぬ ぞ]
・・・・・
「ンデ?ナニシヨウトシテタンダッケ?」
「あ、そうだ。もしよかったらアヒャ君にお願いがあるんだけど」
ピク×3
このことばに三人が反応した。
一人は当の本人アヒャ、
そして同居のぎゃしゃ、
そしてつーちゃんだ。
ガバ!
つー慌てた様子でがしぃの肩を掴みアヒャと距離を取らせる。
「マテマテマテマテ;シィ。アイツニナンカタノムキカ?」
「え?駄目だったかな?;」
「ヤメトケ、アトデヘンナコトヨウキュウシテクルトヤッカイダ」
アヒャと距離を取っても、まだぎゃしゃの所には会話は聞こえていた。
「トニカク、コイツガイタラロクニハナシモデキン。ノー、イドウスルゾ」
「わかりますた〜」
「えっと;・・・またね;アヒャ君」
三人が去ったあと、ぎゃしゃが出ようとすると、アヒャは止めた。
[ま だ で る な]
スコ!
アヒャの腕の少し下に包丁がとんできた。
追ってこないように威嚇だろうか。
・・アヒャ場数踏みすぎ;
少し時間をおいたあと、ベンチの下から出た。
「アヒャヒャ;ワリーな、ぎゃしゃ。」
「いいよ、君の変な体質にはもうなれてる。」
アヒャを担いで寮に帰るぎゃしゃ。
「でも全く動かないなんてどんだけのスピードだしたんだよ;」
「人の限界は突破したな、アヒャヒャヒャヒャ」
「・・・・・アヒャ。」
「何だ?」
「恋って切ないね・・」
「アヒャヒャ、俺にはそうは思えねぇな。恋ほど激しい物はないね!」
「それ、君だけだよ多分」
「アヒャヒャヒャヒャ!それもそうだな」
体は動かないのに随分とおきらくなアヒャに、ぎゃしゃも少し気が楽になっていた。
「アヒャヒャ、まあでもあれだ。」
「ん?」
「今日は美味い飯食わせろよ。」
「・・・フフ。OK」
アヒャが言ったジョーク交じりの言葉は
今のぎゃしゃにはとても嬉しいようだった。
【あと少し続く】